会計ソフトとは、仕訳や決算の処理に加え、契約・財務・非財務情報を集約し、経営判断を支える基盤です。制度変更やデータ分散への対応が求められるなか、経理だけでなく現場や経営企画を含めた業務設計と、AIを活用した全社的な情報連携が課題になっています。
このレポートは、2024〜2026年開催の「会計ソフト」に関連する講演をもとに作成されています。掲載講演の関心は、経理業務の効率化から全社情報の接続へ、さらにAIによる判断支援と経営管理への活用へ移ってきました。一貫しているのは、会計データを経営に役立つ情報へ変えるという問題意識です。近年は特に、新リース会計基準への対応、API連携、管理会計やプロジェクト単位の収益管理を組み合わせる議論が増えています。
2026年(AIファーストで会計を「記録」から経営判断の基盤へ)
2026年の会計ソフト領域で企業が直面していたのは、単なる入力や決算の効率化ではなく、複雑化する会計基準と分散したデータを、経営判断に間に合う形で扱うことです。新リース会計基準への対応、国内外の会計ソフトの連携、プロジェクト単位の収益管理など、経理部門だけでは完結しない課題が前面に出ています。IPA「DX動向調査」でも、データを活用した業務変革や全社的な推進体制の構築が課題として挙げられており、会計ソフトは記録の道具から、全社データを扱う基盤へ役割を広げる必要が生じています。
従来の対策では、Excelによる集計、担当者の経験に依存した判断、会計システムごとの個別対応に限界がありました。会計データを集めても、報告資料への加工に時間がかかり、経営会議で使える情報になるまでに遅れが生じます。2025年の掲載情報では、新リース会計基準への対応方法やAIによる判定など、個別業務の自動化に関心が集まっていましたが、2026年はそこから進み、制度対応をきっかけに業務プロセスそのものを組み替える方向へ変化しています。AIも単発の自動処理ではなく、API連携や管理会計と組み合わせ、データを継続的に使うための仕組みとして捉えられています。
その変化を象徴するのが、株式会社マネーフォワードの新リース会計基準への早期適用です。対応を一時的な作業にせず、経理本部のプロセスオーナーが関わるプロジェクトとして進め、基準対応と業務プロセスの見直しを結び付けています。この事例が示しているのは、会計基準の変更がシステム導入だけで終わらず、責任者や業務の流れを再設計する契機になったことです。また株式会社kubellでは、戦略と現場を数字でつなぎ、自走型組織を支える管理会計を目指しています。数字を経営企画だけが管理するのではなく、現場が判断に使える形へ変えた点に意味があります。さらに株式会社チームスピリットの事例では、プロジェクト管理会計によって赤字案件の把握やアサイン最適化を目指しており、会計情報を事後確認から進行中の意思決定へ移そうとしています。
共通するのは、会計ソフトを導入して作業時間を削るだけでなく、データの発生源から経営報告までをつなぎ、現場の行動を変えようとした点です。成果は、掲載情報上では離職率や削減時間のような数値よりも、リース情報の収集・判定を含む制度対応の前倒し、戦略と現場の共通指標化、赤字案件や人員配置を管理する仕組みとして表れています。2026年はAIファーストの発想が、入力・集計の自動化から、使われないデータを判断資源に変える段階へ進んだ年です。翌年は、AIが会計処理を補助するだけでなく、予実差異の検知、案件収益の予測、基準変更への継続対応まで担えるかが問われます。
2025年(新リース会計基準とAIで揺らぐ経理業務の境界)
2025年の「会計ソフト」をめぐる中心課題は、経理部門が新リース会計基準への対応と、AI時代に向けた業務の再設計を同時に迫られたことです。新基準への対応では、契約書や取引内容からリースに該当するものを漏れなく見つけ、現状を把握し、適用開始までの計画を立てる必要があります。一方で、従来型の経理業務は正確性を優先するほど確認・転記・集計に時間を取られ、経営判断に必要な分析や他部署との連携に人手を回しにくい構造を抱えていました。経済産業省「DXレポート」やIPA「DX白書」でも、デジタル化を単なる効率化にとどめず、業務や組織の変革につなげることが課題として示されています。
これまでの対策は、制度の理解、対応スケジュールの作成、リース識別のルール整理といった「人が確認して整える」方法が中心でした。しかし、契約や取引の洗い出しを手作業で続ければ、対象範囲の見落としを防ぐ負担は残ります。2025年4月の内田正剛氏の講演では、適用開始までおよそ2年となった段階で、現在地を把握し、識別の考え方を整理して早期に準備する重要性が示されました。同じ時期に金子智朗氏は、AIによって会計業務のスマイルカーブ化が進み、定型的な処理の付加価値が相対的に下がると指摘しています。つまり課題は、制度対応を終えることから、定型作業を減らして経理の役割そのものを組み替えることへ移りました。
この変化を具体化したのが、株式会社TOKIUMによるAI活用です。2025年12月の掲載講演では、新リース会計基準への対応をAIで自動化する仕組みが示され、従来は担当者が契約内容を読み込み、リース該当性を判断していた工程を、AIによる判定の対象に移しています。概要に導入効果の数値はありませんが、制度対応の入口である「何がリースに当たるのか」の確認を自動化しようとした点に意味があります。また、金子智朗氏がAcerの付加価値分析を引き合いに示したのは、会計でも処理そのものより、判断・分析・経営支援に人が移る必要があるという構造変化です。前者が仕組みの変化、後者が人材の役割の変化を示す事例です。
複数の講演から見える共通点は、会計ソフトが記録・集計の道具から、制度対応の判断を支援し、経理の時間配分を変える基盤へ進もうとしていることです。2025年は新リース会計基準が、経理業務の属人性や手作業の多さを可視化する契機になりました。ただし、AI導入だけで対応が完了するわけではなく、契約情報をどこで管理するか、現場部門とどう連携するか、AIの判定を誰が確認するかが残ります。翌年は、準備の呼びかけから、早期適用や実際のプロジェクト運営、連結会計・管理会計との接続へと焦点が移り、AIを組み込んだ業務設計を実務で検証する段階に進むと考えられます。
2024年(会計ソフトが問われた経理の役割再定義)
2024年に企業が直面していた中心課題は、会計ソフトで処理を効率化することだけでは、経理を取り巻く変化に対応しきれなくなったことです。ビズスタに掲載された講演では、新リース会計基準への対応が、単なる仕訳や資産管理の問題ではなく、契約情報を持つ各部門との連携、経理部門の業務設計、さらには企業価値の伝え方まで考え直す契機として扱われています。経済産業省「価値協創ガイダンス」が示すように、財務情報と非財務情報を結び付けて企業価値を説明することも、経理に求められる課題になっています。
従来の対策は、決算処理を速める、入力を減らす、帳票を正確に出すといった業務単位の効率化が中心でした。しかし、新リース会計基準への対応では、契約の把握やリース該当性の判断など、経理だけでは完結しない情報収集が必要になります。会計ソフトを導入しても、部門ごとに契約情報が分散し、誰がどの時点で判断するのかが曖昧なままでは、作業の自動化は限定的です。2024年の論点は、ソフトの機能不足よりも、ソフトに渡すデータと業務責任の設計不足へ移りました。
その変化を象徴するのが、一般社団法人日本CFO協会の中田清穂氏と株式会社プロシップの巽俊介氏が示した、新リース会計基準対応を経理部門の役割再設計につなげる視点です。基準対応をきっかけに、契約を管理する部門と経理を結び、システム上で情報を一元的に扱う方向へ重心が移っています。一方、早稲田大学大学院 会計研究科の柳良平氏が扱った柳モデルとインパクト会計は、非財務資本や事業活動を企業価値と結び付ける考え方を示しました。いずれも講演概要に個別企業の導入効果や数値成果は記載されていませんが、会計ソフトを記録の道具から、経営判断に必要な情報基盤へ変える取り組みとして重要です。
複数の論点から共通して読み取れるのは、経理業務のデジタル化が「処理の省力化」から「全社情報の接続」へ進んだことです。成果は、削減時間や決算日数として明示される段階には至っていないものの、契約・財務・非財務情報を同じ経営管理の流れに置く方向性が明確になりました。前年までの会計ソフト活用が業務効率を主眼としていたとすれば、2024年は制度対応を起点に、経理が他部署と協働して経営に関与する年でした。翌年以降は、新リース会計基準への対応を実装段階へ進め、AIなどによる契約判定やデータ収集の自動化によって、今回示された構想を具体的な業務成果へ変えることが課題になります。
全体を通じて、掲載講演では会計ソフトを記録・集計の道具から、契約情報や財務・非財務情報をつなぎ、経営判断を支える基盤へ転換する構図が示されています。新リース会計基準への対応を起点に、業務責任や経理の役割を見直し、AIで自動化と分析を進める方向に議論が移っています。
※登壇者の氏名・所属・役職は講演開催当時の情報です。現在の所属・役職とは異なる場合があります。
※本レポートは、ビズスタに掲載された「会計ソフトの成功事例」をテーマにした講演情報を元に傾向を分析しています。
※市場環境の参照:IPA「DX動向調査」、経済産業省「DXレポート」、IPA「DX白書」、経済産業省「価値協創ガイダンス」
編集者:ビズスタ市場調査チーム