ECとは、オンラインで商品・サービスを提供するだけでなく、店舗や顧客対応、物流、データ活用を通じて購買体験を設計する事業基盤です。顧客接点が多様化するなか、大企業では既存基幹を維持しながら、部門やブランドをまたいでデータと業務をつなぎ、継続的に顧客体験を改善することが課題です。
このレポートは、2020〜2026年開催の「EC」に関連する講演をもとに作成されています。掲載講演の関心は、コロナ禍におけるオンライン接点の拡充から、OMO(オンラインとオフラインを融合する取り組み)と顧客データ統合、さらにAI活用を前提とした基盤再設計へ移ってきました。一貫しているのは、ECを単独の販売チャネルではなく、顧客理解を事業運営へ反映する基盤として捉える問題意識です。近年は特に、既存基幹を維持しつつ、AIでブランド横断のデータ活用と施策実行をつなぐ議論が増えています。
2026年(AIファーストで挑む、基幹を止めない次世代EC基盤)
2026年のECで中心となった課題は、顧客体験を高度化したい一方で、複数ブランド、チャネル、既存基幹にまたがる顧客データが分断され、施策を実行する土台そのものが追いつかないことでした。2025年には顧客理解、OMO、CRM、生成AIを用いた接点改善が主題でしたが、2026年は「顧客を理解しても、データと業務がつながらなければ体験を変えられない」という段階に進んでいます。IPA「DX白書」でも、データ活用や変革を担う組織・人材が課題として挙げられています。EC部門だけで最適化を進めるのではなく、基幹、マーケティング、データ基盤をまたぐ経営課題として再定義された年でした。
従来の対策は、ECサイトのリニューアル、CRMツールの追加、データ基盤の新設といった個別最適に偏りがちでした。しかし大企業では、長年稼働してきた基幹システムを止めて全面刷新することは、在庫、受注、会計、ブランド運営への影響が大きく、現実的な選択になりにくいものです。その結果、顧客データはブランドやシステムごとに残り、購入履歴を横断したコミュニケーションや、変化の速い顧客接点の改善が遅れます。AIも、分断されたデータを前提に個別業務へ導入するだけでは、顧客理解から施策実行までを一気通貫にする力になりませんでした。
ビズスタに掲載されているShopify Partners Roadshow Season3 - NEXT GEN COMMERCE: EC革命前夜では、ラオックスECストラテジー株式会社と株式会社エーアンドエスが、多ブランドECにおける顧客データ分断を、基幹を刷新せずに解く方向性を扱っています。これは新しいEC基盤へ全てを移すのではなく、既存の基幹を維持しながら顧客体験側を再構成する考え方です。株式会社ハックルベリーの安藤祐輔氏、佐藤環氏が示したShopify、Braze、Databricksなどを組み合わせるアーキテクチャの論点も、この変化を支えます。AIによって、従来は部署やブランドごとに散在していた顧客・購買データを活用し、顧客接点での判断や施策実行につなげる道筋が見え始めたことが重要です。講演概要に定量成果は示されていませんが、成果を「新システムの導入」ではなく、基幹を残して顧客体験を取り戻せる運用構造へ移すことに置いています。
これらの事例から読み取れる2026年の潮流は、ECの競争力をサイト機能ではなく、組織・人材・ツール・データを接続する設計力で捉え直したことです。全面刷新か現状維持かという二択を離れ、変えてはいけない基幹と、速く変えるべき顧客接点を分けるアプローチが現実解になりました。翌年に向けては、この接続基盤の上でAIを単なる分析補助にとどめず、ブランド横断の顧客理解、施策設計、運用判断までどこに組み込むかが問われます。AIファーストのECは、顧客体験を自動化する競争ではなく、変化を継続的に実装できる企業構造をつくる競争へ進むでしょう。
2025年(集客競争から「顧客理解で選ばれ続けるEC」への転換)
2025年のEC企業が直面した中心課題は、ポストコロナで特需が終わり、商品を出品し広告で集客するだけでは持続的に売上を伸ばせなくなったことです。モール内の競争激化、販促費の上昇、物流・決済不正への対応も重なり、獲得した顧客をいかに離脱させず、再購入や推奨につなげるかが経営課題になりました。経済産業省「電子商取引に関する市場調査」でも、電子商取引の拡大に伴い事業者間の競争やデジタル活用の重要性が示されています。2024年までのECでは、店舗とオンラインをつなぐオムニチャネル化やデータ基盤の整備が主題でしたが、基盤を整えるだけでは顧客に一貫した価値を返せない段階に入ったといえます。
足りなくなったのは、サイト改善、メール配信、レコメンド、店舗施策をそれぞれ最適化する発想です。顧客はSNS、店舗、公式EC、モールを横断して検討・購入するため、接点ごとに異なる情報や接客を受ければ、ブランドへの信頼は積み上がりません。ビズスタに掲載されている2025年の講演では、顧客データを統合し、商品企画、接客、CRM、決済、物流までを顧客体験として設計し直す動きが目立ちます。取り組みの焦点は「売るための自動化」から、顧客の状況や嗜好を理解して関係を深める仕組みへ移りました。
この変化を端的に示すのが、チュチュアンナのEC戦略です。同社は商品企画、OMO、CRM、アプリ、データ分析、UIUX改善、AI活用、組織改革を個別施策にせず、顧客理解を軸に結び直し、EC事業の年間成長率35%を実現しました。これは、サイトのCVR改善だけを狙うのではなく、商品・接点・組織をまたいで顧客理解を運用することが成長の条件になったことを示します。株式会社ZOZOも、年間購入者数1,200万人超のZOZOTOWNで蓄積した行動・購買データ、独自のファッションデータ、AI、LINEを組み合わせ、「似合う」を届ける挑戦を進め、CFM(Customer Friendship Management)のもとでLTV向上を目指しています。一方、ダイレクトイシイはCRM戦略と業務改革によって通販リピート売上を3倍にしました。広告依存から脱し、既存顧客との関係を事業成長の源泉に変えた点が重要です。
複数の事例に共通するのは、データ活用を分析業務で終わらせず、顧客への提案、接客、商品体験、継続購入の設計へ戻していることです。その際、店舗・EC・マーケティング・情報システムが別々に動くのではなく、共通の顧客像を起点に連携する組織運営が求められました。2025年の潮流は、ECを単独チャネルとして拡大するのではなく、顧客との関係を蓄積する事業基盤として再定義することでした。翌年には、この顧客理解を支えるコマース基盤、データ、組織、人材をどう最適化し、変化に応じて顧客体験を更新し続けるかが、次の競争軸になるでしょう。
2024年(ECを売場から全社の顧客接点へ組み替える年)
ビズスタに掲載されている2024年のEC関連講演から見える中心課題は、EC売上を伸ばすこと自体ではなく、オンラインと店舗、商品企画、顧客対応をどう一つの事業として動かすかでした。店舗とECの併用が当たり前になるほど、チャネルごとに顧客情報や業務を分けたままでは、顧客に一貫した体験を届けにくくなります。IPAのDX白書でも、DX推進における人材や組織、データ活用の課題が指摘されています。EC部門だけに販促、分析、運用を担わせる体制では、需要変動への対応や店舗の価値向上までつなげられない段階に入っていました。
それまでの対策は、ECサイトの改善、広告運用、データ統合といった個別施策が中心でした。しかし2024年には、検索精度、在庫・受け取り、接客、商品開発を別々に最適化するだけでは不十分になりました。企業の取り組みは、ECを独立した販売チャネルとして増強する方向から、店舗もコールセンターも顧客データも含めて収益を生む接点へ再設計する方向へ移りました。その実装を支えたのがAIです。熟練者の勘に頼りがちだった需要予測や商品開発、膨大な商品群からの検索導線は、AIによってデータを基に改善・最適化できる領域になり始めました。
この転換を最も端的に示すのが株式会社キタムラです。BOPISを軸にオンラインの購買行動を店舗での受け取りや相談へ接続し、コールセンターもコスト部門ではなくプロフィットセンターへ変える取り組みを進めました。2022年度のEC関与率は60%に達しており、ECが売上の一部ではなく、顧客の購買全体を動かす基盤になったことを示します。株式会社出前館は、検索エンジンをVertex AI Searchへリプレイスし、検索コストの削減と検索精度改善によるCTR、CVR向上を狙いました。数値は講演概要に示されていませんが、検索を単なるサイト機能ではなく、費用と売上の両方を左右する経営課題として扱った点が重要です。資生堂インタラクティブビューティー株式会社も、新たな顧客基盤「Beauty Key」、EC、OMO、AI活用を同時に強化し、デジタル人材育成まで改革対象に含めました。この事例が示すのは、顧客体験の刷新にはシステム導入だけでなく、継続運用できる組織と人材が不可欠だということです。
複数の事例に共通するのは、ECの成果指標をオンライン売上だけで判断せず、店舗送客、顧客対応、商品開発、運用コストまで含めて捉え直した点です。2023年に顧客データ統合やOMOの基盤整備が主題だったのに対し、2024年はそのデータを現場の判断と収益に結び付ける実装段階へ進みました。翌年には、こうした接点統合を前提に、顧客インサイト起点のCXやAIによる個別最適化が競争軸になります。2024年は、ECを「売る場所」から、全社の顧客接点を動かす運営基盤へ変え始めた年でした。
2023年(ECの成長鈍化を越える、ID統合とOMOの顧客再発見)
2023年のEC企業が直面した中心課題は、コロナ禍で拡大した市場が日常化する一方、新規参入の増加で顧客獲得コストが上がり、売上成長が鈍化したことでした。ビズスタに掲載されている講演からは、商品を並べて広告で送客するだけでは、顧客に選ばれ続けられないという危機感が読み取れます。店舗、EC、アプリ、SNSに顧客接点が広がった反面、購買履歴や会員ID、接客情報が分断され、「誰に何を届けるべきか」を判断できないことが成長の制約になりました。IPAのDX白書でも、データ活用とそれを担う人材がDXの重要課題として挙げられています。
前年までのEC施策では、CDPやMAを導入し、購入単価やリピート率を改善する取り組みが中心でした。しかし2023年は、データを取得・配信する仕組みだけでは足りず、顧客が店舗とオンラインをどう行き来し、どの体験でブランドとの関係を深めるのかまで捉える必要が生じました。対策は、サイト単体のCVR改善や一律の販促から、チャネル横断でIDを統合し、顧客ごとの文脈に合わせてコンテンツ、接客、商品提案を設計するOMOへ移りました。データの統合はIT基盤の整備ではなく、顧客理解を現場の行動に変える経営課題へと再定義されたのです。
この変化を象徴するのが資生堂と株式会社アーバンリサーチです。資生堂は、店舗、EC、ブランドごとに分かれていた会員サービスを新会員サービスアプリ「Beauty Key」に集約し、顧客IDを一元化しました。目的は属性別の販促ではなく、一人ひとりを理解したパーソナライズコミュニケーションを店舗とECで実行することでした。一方、株式会社アーバンリサーチはCXプラットフォーム「KARTE」に実店舗データを統合し、ECと店舗を併用する重要顧客「SBEV」を発見しました。この事例が示すのは、統合データの価値は既存の顧客分類を精緻化することだけでなく、従来は見えなかった成長顧客を見いだし、OMO体験の設計対象を変えられる点にあります。
さらに株式会社集英社は、データ分析と出版社ならではの企画・編集力を結び付け、興味関心に沿ったコンテンツで商品との出会いを設計しました。「集英社 HAPPY PLUS STORE」は150万人以上のユーザーに利用され、累計1億円を超えるヒット商品も生み出しています。2023年の潮流は、データを販促の効率化に閉じず、顧客接点を育てるコンテンツと現場接客に接続したことにあります。翌年には、この統合されたデータを前提に、商品検索や提案の最適化、さらに組織・人材の変革へ焦点が移ります。2023年は、ECを販売チャネルから顧客関係を継続的に設計する事業基盤へ転換した年でした。
2022年(脱クッキーが迫ったECの「集客」から「顧客資産」への転換)
2022年のEC企業が直面した中心課題は、コロナ禍で拡大した需要を、広告頼みではなく持続的な収益へ変えることでした。新規参入の増加でCPAは上昇し、顧客行動は店舗、EC、アプリ、SNSへ分散しました。加えてCookie規制の進行により、媒体タグを用いて低CPAで顧客を獲得する従来のダイレクトマーケティングは限界を迎えました。経済産業省「電子商取引に関する市場調査」が示す市場拡大の裏側で、企業には「流入を増やす」だけでなく、誰がどの接点で何を購入したかを自社で理解し、再購入へつなげる力が問われました。前年までのEC対応やオンライン接客、チャネル追加だけでは、顧客情報が接点ごとに分断され、施策の評価も短期CV中心にとどまりやすかったのです。
そこで取り組みは、サイト単体のUI改善から、ファーストパーティデータを核に店舗・EC・アプリをつなぐ顧客基盤づくりへ移りました。オンワードは、低CPA重視からLTV重視へ方針を転換し、リアル店舗とECの行動を統一して分析するフレームワークと評価指標を導入しました。「ONWARD CROSSET STORE / SELECT」や「クリック&トライ」を含め、ブランドや売り場ではなく一人ひとりを軸にコミュニケーションを組み立てようとした点が重要です。パルもPAL CLOSETを含む事業で、Google Cloud / KARTEを中心としたデータ基盤の構築と、データを使う人・組織の設計を並行させました。ツール導入をゴールにせず、現場が日常的にデータに触れる文化をつくることが、顧客体験を継続的に変える前提になりました。
成果が明示された掲載講演では、統合データを施策に直結させる効果も見え始めました。店舗・EC・アプリのデータをCDPで統合し、メール、LINE、web接客を連動させた小売企業の事例では、平均購入単価が1.3倍となりました。別のCDP活用事例では、店舗とECの統合データを用いたOMO施策によりF2転換率が1.7倍に伸びています。これは、データ統合が分析レポートの整備ではなく、購入後の顧客に次の提案を届ける実行基盤として機能したことを示します。一方、オイシックス・ラ・大地株式会社は、会員数増加に対して20年以上のデータを持つオンプレミスのOracle DBとECサイトのAWS移行に取り組みました。販促の高度化以前に、需要増に耐え、顧客接点を止めない基盤を更新する必要があったのです。
複数の事例から読み取れる2022年の潮流は、ECを販売チャネルではなく、顧客理解、接客、基盤運用を結び付ける事業基盤として再定義したことです。サイト内検索の改善でCV率が2.4倍になった事例も、個別最適の重要性を裏付けますが、主戦場はCV改善だけではありません。顧客単位でLTVを追い、チャネル横断で体験を設計し、そのためのデータと組織、システムを整える段階へ移りました。翌年には、この土台の上で顧客データ活用の内製化や、AIを用いたサイト体験の最適化が本格化していきます。2022年は、その後のEC競争を左右する「顧客資産を自社で育てる」構造転換の年でした。
2021年(ECを「売場」から購買体験の基盤へ変えたOMO転換)
2021年のEC企業が直面した中心課題は、コロナ禍で急増したオンライン需要を取り込むだけでなく、店舗、EC、物流、顧客対応をまたいで一貫した顧客体験を維持することでした。前年までのD2C参入やECサイト開設が「販売チャネルを増やす」対応だったのに対し、この年は、接点が分断されたままでは顧客の期待に応えられないことが明確になりました。IPA「DX白書2021」でも、デジタル技術の導入を事業変革につなげる人材・組織面の課題が指摘されています。ECの急成長は、集客だけでなく在庫、接客、配送、データ運用までを再設計する必要性を企業に突きつけました。
従来の対策であるECサイト刷新、広告出稿、クーポン配信だけでは、購入後の配送や店舗での体験、顧客ごとの提案までを改善できませんでした。データを集めても施策に落とし込めない、ECと店舗で在庫や評価が衝突する、ツールを導入しても運用人材が足りないという問題が表面化しています。そこで取り組みは、ECを独立部門として最適化する方向から、顧客行動を軸に店舗・EC・メディア・物流を接続するOMOへ移りました。共通IDやデータ基盤、在庫連動、スタッフによるデジタル接客、購買後の受取・配送体験までを、売上を生む一つの流れとして扱う変化です。
この転換を象徴するのが株式会社そごう・西武です。CHOOSEBASE SHIBUYAでは、店頭とECの在庫を完全連動させ、店舗・EC・メディア共通のデータプラットフォーム、ウォークスルー決済、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)を組み合わせました。店舗をECの補完にとどめず、デジタル前提の購買体験と新ブランドの出店基盤に再定義した点が重要です。一方、デジタル接点で成果を出した株式会社ドームは、顧客エンゲージメントを重視した施策により、アンダーアーマーのEC売上高200%を実現しました。株式会社スタージュエリーブティックスも、個性に合わせた接客という店舗の価値をデジタルで実践し、EC売上高成長率150%を達成しています。これらが示すのは、EC成長の源泉が品揃えや流入量だけでなく、ブランド固有の接客をオンラインでも継続できるかに移ったことです。
複数の事例に共通するのは、顧客データ、店舗資産、物流・決済を別々に効率化するのではなく、顧客が迷わず買い、受け取り、再び選ぶ流れに統合したことです。2021年の潮流は、ECを売上チャネルとして拡大する段階から、リアルとデジタルを往復する顧客体験の基盤へ進んだことにあります。翌年以降は、この基盤の上でCDPによるデータ統合、ロイヤル顧客育成、チャネル横断の個別コミュニケーションが焦点になります。ECの競争力は、サイト単体のCVRではなく、全接点を通じて顧客理解を事業運営に反映できる力へと移っていきます。
2020年(ニューノーマルで始まったD2C・CX再設計)
2020年のECで企業が直面した中心課題は、COVID-19で店舗来訪や対面接客が制約されるなか、オンラインを単なる販売代替ではなく、顧客との関係を維持・深める接点へ転換することでした。経済産業省「電子商取引に関する市場調査」が示すEC化の進展に対し、企業内部にはアナログな業務慣行や、店舗・EC・顧客データが分かれたままの組織が残っていました。サイトを開設し、広告で集客する従来の対策だけでは、急変する購買行動を捉え、継続購入につなげるには不十分になったのです。
ビズスタに掲載されている2020年の講演からは、ECの役割が「商品を売る場所」から「顧客理解を基に事業を動かす基盤」へ変わり始めたことが読み取れます。特に注目されたのはD2Cです。ただし、その本質は自社ECを新設することではなく、顧客との直接的な関係を製品開発、コミュニケーション、組織づくりまで反映する点にありました。同時に、スマートフォンを軸にアプリやLINEを顧客接点のハブとし、実店舗を含めた体験をつなぐ方向へ取り組みが広がりました。動画やライブコマースも期待された一方、技術導入だけでは浸透せず、購買体験全体にどう組み込むかが問われ始めています。
この転換を最も事業成果として示したのが株式会社MonotaROです。インターネットとデータベースマーケティングで間接資材の調達を変え、顧客である事業者が本業に集中できる状態を目指しました。10年連続で前年比売上20%増という成長を支えたのは、EC基盤やデータ活用だけでなく、CXとEXを技術、組織、企業理念、カルチャーまで含めて扱った点です。これは、顧客体験の改善をフロント施策に閉じず、働く側の体験と一体で設計する必要性を示しています。一方、UCC上島珈琲株式会社は、実店舗とECで展開する「My COFFEE STYLE」において、LINE上に独自サービスを構築し、コーヒー専門会社としての知見をデータ活用とエンゲージメント向上に結び付けました。ユニリーバ・ジャパン・サービス 株式会社の「Laborica (ラボリカ)」も、日本発かつ日本初の自社ECによるD2Cブランドとして、コミュニケーションだけでなく製品開発と組織構築まで既存事業との差を問い直しました。これらの事例が示すのは、D2Cが販路追加ではなく、顧客の声を事業運営へ戻すための実験場だったということです。
共通する潮流は、接点のデジタル化から、顧客データと現場・商品・組織を結び直すEC DXへの移行です。IPA「DX白書」が課題として挙げる、データ活用を事業変革へつなげる力は、まさにこの年のECで試されました。成果が明示された株式会社MonotaROのように、成長を持続させる企業はCXを継続的な経営課題として扱っていました。翌年には、この基盤を踏まえ、店舗とECの連携、CRM、アプリ接客、スタッフを含むOMOへと論点が進みます。2020年は、危機対応としてECを急拡大する段階から、顧客とのつながりを競争力へ変える段階への分岐点でした。
全体を通じて、掲載講演ではECを売場から、店舗、物流、顧客対応、商品企画を結ぶ顧客接点へ位置づけ直す構図が見られます。議論の中心は、集客やサイト改善から、顧客データを統合し、組織横断で顧客体験を更新する運用へ移っています。
※登壇者の氏名・所属・役職は講演開催当時の情報です。現在の所属・役職とは異なる場合があります。
※本レポートは、ビズスタに掲載された「ECの成功事例」をテーマにした講演情報を元に傾向を分析しています。
※市場環境の参照:IPA「DX白書」、経済産業省「電子商取引に関する市場調査」
編集者:ビズスタ市場調査チーム